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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)3374号 判決

控訴人(被告) 関川宰 外九名

被控訴人(原告) 国鉄動力車労働組合

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示及び当審証拠目録記載のとおりである。

ただし、原判決六枚目裏五行目の「以上合計」の前に「乗務員賃金是正に伴う組合費金一四万五二八〇円、」を加える。

理由

一  当裁判所は被控訴人の本訴請求は認容すべきものと判断する。その理由は原判決の理由と同一であるからこれを引用する(ただし、原判決一三枚目表五行目、同一四枚目表六行目、同一〇行目の各「西森嚴」を「西森巖」と訂正する。)。

二  控訴人らが執行委員個人としても責任を負うべきことについて付言する。

組合費は、組合規約上、被控訴人に帰属するものであることはいうまでもないから、千葉地本管内の各支部が組合員から徴収した時点でこれが被控訴人に帰属することは当然の事理であり、千葉地本が被控訴人から分離独立する旨の決議をしても、それ以前の分が被控訴人に帰属することもまた当然である。成立に争いのない甲第一、第二号証、原審証人青木実蔵の証言、原審における控訴人中野洋本人尋問の結果によれば、千葉地本が支部から徴収した組合費は、千葉地本代表者関川宰名義をもつて開設した銀行預金口座に入金され、更に被控訴人に送金されることが認められるところ、右各証拠及び原審認定の事実によれば、千葉地本(その管内の支部も含めて)は、被控訴人の機関として徴収手続を代行するにすぎないのであるから、その徴収にかかる組合費は被控訴人のために預り保管し、そのまま被控訴人に納入する義務を負うものである。しかして、控訴人らが執行機関として、全員一致の意見をもつて、千葉地本のためにこれを使用すべきことを立案決定し、昭和五四年三月三〇日の千葉地本第三三回臨時大会において全員共同してこれを提案してその決議を得たことは、組合費の不法な領得行為といわなければならない。しかして、労働組合の下部組織の執行機関の構成員が不法行為により上部組織に損害を生ぜしめた場合、機関個人としての責任をも負うものと解するのを相当とする。労働組合の内部紛争に起因する労働活動として職務行為に関してなされたものといえども同様である。執行機関の構成員は、その職務上の地位と権限に基づき立案決定した行為につき、個人としても不法行為責任を負うべきことは、団体法理上その構成員が個人の行為たる側面をも有することに徴して肯認すべきであり、この理は労働組合の上部組織と下部組織間での内紛に起因する不法行為の場合であつても、別異に解すべき理由はないからである。控訴人らの前記組合費の領得行為が不法行為となることはいうまでもないから、控訴人らは個人としてその責任を負うべきものであるといわなければならない。

三  以上の理由により、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却する。

訴訟費用の負担につき、同法九五条八九条九三条適用

(裁判官 菅本宣太郎 山下薫 秋山賢三)

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